父の還暦を祝う夜、離れて暮らす家族が久しぶりに顔をそろえました。テーブルの中央には、母が腕をふるった煮込み料理と、この日のためにとっておいた一本。還暦の祝いの色にちなんで何年も前に選び、開ける日をずっと待っていた、南ローヌの赤、シャトーヌフ・デュ・パプです。ラベルの年号を、父が懐かしそうに読み上げます。
最初の一杯を注ぎ終えると、父はソムリエナイフを手もとに引き寄せ、しばらく眺めていました。「よくできているな」と、思わず声がもれます。バネの先の小さな蜂と、背に沿って長く続く細かな彫り、やすりで刻まれた左右のプレートの装飾、そして刃を飾る彫金。蜂の羽の筋まで確かめようと、父は老眼鏡をかけ直し、ナイフを明かりにかざします。その横顔に、家族の笑い声が重なりました。
蜂と彫金に目を奪われるうちは、オリーブウッドのハンドルは控えめな脇役かもしれません。けれどこの木は、手に触れるたびに少しずつつやを深め、年を経るごとに温かく奥行きのある光沢をまとっていきます。木そのものを傷めることなく育つその輝きは、この先、父が開けていくボトルの数だけ増していくはずです。蜂が金属の仕事を見せるなら、木は時間の仕事を見せてくれます。
レバーの裏には、父の名前を刻んでおきました。数ある高級なワインオープナーのなかで、この贈り物と同じものは、どこを探してもありません。いつかこのナイフが次の世代へ渡り、別の祝いの席でボトルを開ける日が来ても、刻まれた名前はそこに残ります。贈ったその日だけでなく、何年も先の食卓でも、その刻印が贈り主の気持ちを伝えてくれます。還暦の夜に開けた赤の記憶ごと、受け継がれていく一本です。

ラギオール ソムリエナイフ プレステージ、蜂の彫刻とオリーブウッドハンドル
















