まず目を引くのは、ハンドルの前後を飾る口金です。指でなぞると、草木を写した模様が、かすかな凹凸となって伝わってきます。一筋ずつ、手で彫られた線です。視線を背へ移せば、バネの鋼と一体になった蜂が小さく頭をもたげ、そこから細かな刻みが途切れずに続いています。側面の金属板にも、刃にも、やすりを当てた手仕事の跡。金属に模様を刻む昔ながらの技が、この小さな道具ひとつに集まっています。
定年を迎えた日の夜、長年ともに働いてきたチームから、この一本が手渡されます。送別の席に用意されたのは、マディラン。贈られたばかりのソムリエナイフでコルクを抜き、皆のグラスにワインが行き渡ると、積み重ねてきた仕事の日々に、静かにひと区切りがつきます。栓を抜くしぐさそのものは、遠い昔から変わっていません。その変わらないしぐさが、この夜は、次の日々へ踏み出す一歩と重なります。
その手に収まるハンドルは、水牛の角です。ひんやりとしてなめらかで、石を思わせるほど目の詰んだ手ざわり。握ると、角の密度が確かな存在感となって手のひらに伝わります。光沢を帯びた黒を背に、口金やバネの細工は、灯りのもとで線の一本一本まで浮かび上がります。グラスを傾けながら手もとに目を落とせば、贈ってくれた仲間たちの顔が、ひとりずつ思い浮かびます。
レバーの裏に受け取る方のお名前を刻んでおけば、チームからの感謝も、その刻印とともに手もとに残ります。退職祝いのプレゼントに選んだこのワインオープナーには、製造上の欠陥に対する生涯保証も付いています。長い勤めは終わっても、この一本の勤めはここから始まります。新しい暮らしの食卓で栓を抜くたび、あの夜の乾杯の声も一緒によみがえります。

ラギオール ソムリエナイフ、彫刻口金とバッファローホーンハンドル














